犬のしつけは「信頼関係」から始まる

犬のしつけを始める上で最も重要なのは、トレーニング方法やコマンドを覚えさせることよりも、飼い主との信頼関係を築くことです。信頼がなければ、どんなに優れた方法を用いてもしつけはうまくいきません。
犬にとって飼い主はリーダーであり、安心して従える存在である必要があります。そのためには、日常生活の中で一貫した対応を心がけ、犬が安心できる環境を整えることが重要です。例えば、名前を呼ばれたら毎回同じ口調で優しく返す、指示を出したらきちんと褒める、決して感情的に怒鳴らないといった姿勢が、犬にとっての「信頼の基礎」となります。
また、犬がリラックスしているときや、目を見て穏やかに話しかける習慣も、絆を深める一助になります。散歩や遊びの時間を通じてポジティブな体験を積み重ねることも有効です。
しつけはあくまで「関係性の延長」にあるものです。信頼関係が築けていれば、犬は自然と「この人の指示に従えばいいことがある」と学び、素直に反応するようになります。
名前を覚えさせるのが第一歩

犬のしつけを始める際、最初に取り組みたいのが「名前を覚えさせる」ことです。これは単に名前を知ってもらうためだけではなく、呼ばれたら反応する習慣をつけることで、その後のトレーニングをスムーズに進めるための基盤になります。
名前を覚えさせるコツ
- 短くて呼びやすい名前にする
名前は1〜2音節の短く明瞭なものがおすすめです。何度も呼ぶことになるため、発音しやすく、犬も聞き取りやすい名前にしましょう。 - ポジティブな場面で繰り返し呼ぶ
名前を呼んだら必ず「笑顔で声をかける」「おやつをあげる」「遊びを始める」といったポジティブな反応をセットにしてください。これにより犬は「名前を呼ばれる=いいことがある」と学習します。 - 注意や叱るときには名前を使わない
名前を呼ぶことがネガティブな記憶と結びつくと、犬が名前を無視するようになります。叱るときは名前を呼ばず、落ち着いたトーンで対応しましょう。
毎日数分の練習でOK
練習の時間は1回2〜3分程度で十分です。集中力が続かない犬も多いため、短時間に楽しく終えるのがポイントです。部屋の中で、犬がこちらを見ているタイミングに「○○ちゃん!」と呼び、反応があればすぐに褒めたりおやつをあげたりしましょう。
名前を覚えさせることで、呼び戻しや指示の受け取りが格段に楽になります。これがしつけの最初の成功体験になれば、犬の学習意欲も高まっていきます。
アイコンタクトで意思疎通を深める

しつけにおいて、犬との「アイコンタクト(目を合わせること)」は非常に重要です。言葉が通じない犬とのコミュニケーションにおいて、視線を通じて意思を伝えることは、しつけをスムーズに進めるうえで大きな助けになります。
アイコンタクトの効果とは?
- 集中力が高まる
犬が飼い主の目を見る習慣がつくと、自然と注意が飼い主に向くようになります。これは指示を聞く体勢に入るということでもあり、トレーニングの質がぐっと向上します。 - 信頼感・安心感が強まる
犬にとって、やさしいまなざしを交わすことは安心のサインです。怖がっているときや不安な場面でも、飼い主の目を見ることで落ち着きを取り戻すケースもあります。 - 問題行動の抑制につながる
アイコンタクトが取れている犬は、飼い主の表情や雰囲気から空気を読みやすくなり、無駄吠えや飛びつきなどの問題行動が減る傾向があります。
アイコンタクトの練習方法
- 静かな場所で犬の名前を呼ぶ
まずは犬の名前を呼んで、こちらに注意を向けさせます。 - 目が合った瞬間に褒める or おやつをあげる
少しでも目が合ったら即座に「いい子!」と声をかけたり、おやつを与えてポジティブな印象を植えつけましょう。 - 徐々に時間を延ばす
慣れてきたら、目が合っている時間を少しずつ延ばすようにします。1秒からスタートし、最終的には数秒しっかりとアイコンタクトできるようになるのが理想です。
アイコンタクトは毎日コツコツ積み重ねていくことがポイントです。犬の目を見るときは決して睨むような表情にならないよう、やさしい表情と声がけを心がけましょう。
おすわりの基本トレーニング

犬のしつけの中でも、「おすわり」は最も基本的で重要なコマンドのひとつです。落ち着かせたい場面や、他の指示を出す前の「基準動作」として活用できるため、早い段階で覚えさせておくと非常に便利です。
おすわりを教えるメリット
- 興奮を抑えられる
来客時や外出時など、犬が興奮しやすいシーンでも「おすわり」の指示で落ち着かせやすくなります。 - 他のコマンドの土台になる
「待て」「ふせ」「おいで」など他のトレーニングをする際も、まず「おすわり」が基本姿勢となります。 - 社会性を養う
おすわりの習慣があると、人や他の犬との接触時に落ち着いて行動しやすくなります。
おすわりの教え方(ステップバイステップ)
- 犬の目の前でおやつを見せる
犬が立った状態で、おやつを鼻先に見せ、注目を集めます。 - おやつを鼻の上から後頭部へゆっくり動かす
犬の視線を誘導するように、おやつを上に動かすと、自然と腰が下がって「おすわり」の姿勢になります。 - 腰が地面についた瞬間に「おすわり!」と声をかける
言葉と動作を結びつけるため、このタイミングが重要です。 - すぐに褒めておやつを与える
成功したことを明確に伝えるため、声とおやつでしっかり報酬を与えましょう。
ポイントと注意点
- 最初は短時間、成功体験を積み重ねることが大切です。
- できなくても叱らず、焦らず練習を重ねましょう。
- おやつの回数は徐々に減らしていき、最終的には声掛けや撫でるだけでも反応するようにします。
「おすわり」は犬と飼い主の信頼を深めるうえでも効果的な練習です。毎日の生活の中で自然に取り入れていきましょう。
「待て」で衝動をコントロールする

「待て」は、犬が興奮したり飛び出したりしそうな場面で、落ち着きを取り戻させるための非常に重要なコマンドです。食事の前、玄関のドアを開けるとき、散歩中の交差点など、安全確保やマナーの面でも大きな役割を果たします。
「待て」を教えるメリット
- 衝動的な行動を防止できる
飛びつき・拾い食い・飛び出しなど、事故やトラブルのリスクが高い行動を防ぐことができます。 - 集中力を養える
「待て」の練習により、犬は自制心と集中力を高め、他のトレーニングへの応用力もつきやすくなります。 - メリハリのある行動が身につく
「指示に従う」「解除されるまで我慢する」という流れを覚えることで、行動にメリハリが生まれます。
「待て」の教え方(ステップ)
- おすわりをさせて、犬の目の前におやつを持つ
まずは犬が落ち着いた状態で指示を受けられるように「おすわり」させます。 - 「待て」と言いながら手を前に出す(ストップのジェスチャー)
視覚的な合図と音声指示をセットにすることで、より覚えやすくなります。 - 数秒待たせてから「よし」や「OK」で解除
最初は1~2秒で十分です。成功したらすぐにおやつや褒め言葉を与えましょう。 - 徐々に距離・時間・誘惑を増やす
慣れてきたら、飼い主が後ろに下がったり、近くに他の人や犬がいる状態でも「待て」を維持できるように練習します。
注意点
- 「待て」の最中に失敗しても叱らず、リセットして最初からやり直すことが大切です。
- 成功体験を繰り返すことで、自信と集中力が育ちます。
- 「解除の言葉」を必ず統一して使うようにしましょう。
「待て」ができるようになると、犬との生活はより安心で快適なものになります。繰り返しの練習で、確実に身につけていきましょう。
「呼び戻し」で安全を守る

「呼び戻し(おいで・カムなど)」は、犬が自由に動いている状態から飼い主の元に戻ってくるよう指示するコマンドです。これは命を守るためにも極めて重要なしつけのひとつであり、特に屋外での散歩やドッグランなどでは必須スキルといえます。
呼び戻しができないと起こるリスク
- 道路へ飛び出して交通事故に遭う
- 他の犬や人に飛びついてトラブルになる
- 危険なものを口にしてしまう
呼び戻しは、単なる便利なコマンドではなく、命を守るための緊急手段であると認識しておきましょう。
呼び戻しのトレーニング方法
- リードをつけた状態で短い距離から練習
犬が飼い主の近くにいる状態で、名前を呼んで「おいで」と言い、来たらすぐに褒めておやつを与えます。 - 犬の好きなテンションで呼ぶ
「怒られるかも」と思わせてしまうと犬は来なくなります。明るく楽しい声で呼びましょう。 - 必ずご褒美を与える
最初のうちは来るたびにおやつやおもちゃ、たくさんのスキンシップで「来てよかった」と思わせることが大切です。 - 徐々に距離や環境を変えて練習
室内 → 庭 → 静かな公園 → にぎやかな場所 というように、段階を踏んで難易度を上げていきます。
失敗時の注意点
- 呼んでも来なかったときに叱ると、「呼ばれる=嫌なことが起きる」と学習してしまいます。
- 一度で来なかった場合は、近づいて軽くリードで誘導し、来ることの成功体験を積ませましょう。
「呼び戻し」は日々の積み重ねが鍵です。練習を楽しみながら、繰り返し取り組んでください。
ごほうびと褒め方のコツ

犬のしつけにおいて、「ごほうび(報酬)」の使い方はとても重要です。正しいタイミングと方法で褒めることで、犬は学習意欲を高め、指示をより早く理解・定着させていきます。
ごほうびの種類と使い分け
- 食べ物(おやつ)
即効性が高く、特に最初のトレーニングでは効果的です。小さめのサイズにして与えすぎを防ぎましょう。 - 声掛け・なでる
スキンシップを好む犬には有効です。落ち着いた声で「いい子!」などと声をかけてあげましょう。 - 遊び
ボール遊びや引っ張りっこなど、その犬が喜ぶ遊びも報酬になります。動きのあるごほうびはテンションを上げたいときに有効です。
褒めるタイミングの重要性
行動の直後、1〜2秒以内に褒める・ごほうびを与えるのが鉄則です。タイミングがずれると、犬は何に対して褒められたのか分からなくなってしまいます。
例:おすわりをしたら、腰が地面についた「その瞬間」に「いい子!」と声をかけてからおやつを与えます。
ごほうびの与え方のコツ
- 同じ報酬ばかりだと飽きてしまうので、数種類をローテーションするのがおすすめです。
- 慣れてきたらごほうびの頻度を少しずつ減らし、「褒め言葉や笑顔」だけでも反応できるようにしていきましょう。
- ごほうびをもらうことが目的にならないよう、「成功体験」と「喜びの感情」をセットにすることが大切です。
しつけを「楽しいこと」として覚えてもらうためにも、正しく褒めることはしつけ成功の鍵となります。
しつけの継続とトラブル時の対処法

しつけは一度で完了するものではなく、継続的な積み重ねが求められます。日常の中でこまめに練習を取り入れることで、犬は安定してコマンドを理解・実行できるようになります。また、うまくいかない時や問題行動が見られたときの「対処法」も心得ておくことが大切です。
継続のコツ
- 「ながら練習」を意識する
食事の前に「おすわり」、散歩の前に「待て」、呼び戻してから遊ぶなど、日常の流れにしつけを組み込むことで無理なく継続できます。 - 短く頻繁に練習する
長時間集中させるのは犬にとって負担です。1回2〜3分、1日数回を目安に、短時間のトレーニングを繰り返すことが効果的です。 - 成功体験を積ませる
難しすぎる課題は避け、できそうなことを確実にこなして「成功→褒める」の流れを維持しましょう。
うまくいかないときの対処法
- 叱らず、原因を探る
うまくできなかった時に感情的に叱っても逆効果です。環境(音・人・犬)、タイミング、報酬の種類などに問題がなかったかを見直してみましょう。 - 一歩戻る勇気を持つ
できていたことができなくなった時は、レベルを下げて再スタートすることが有効です。無理に進めず、「成功体験を取り戻す」ことを優先しましょう。 - 専門家に相談する
噛み癖・吠え癖・分離不安など、家庭では対応が難しい問題は、ドッグトレーナーや獣医師に早めに相談することが解決への近道です。
まとめ
犬のしつけは「ゴールのある作業」ではなく、一生を通じた関係づくりです。完璧を求めすぎず、お互いに無理のないペースで楽しく続けていくことが、最良のしつけにつながります。