犬や猫に乳製品はNG?チーズ・ヨーグルトのリスクと獣医師が教える安全な与え方

犬や猫に乳製品を与えるのは本当に安全なのか?

「チーズやヨーグルトって、犬や猫に少しくらいなら大丈夫でしょ?」と思っている飼い主さんは意外と多いものです。たしかに人間にとっては健康的なイメージの強い乳製品。しかし、ペットの健康を預かる立場としてあえて言いたいのは、“安易な判断はリスクを伴う”ということです。

とくに気をつけたいのが「乳糖不耐症」の存在。これは、人間でも牛乳を飲むとお腹がゴロゴロする体質の人がいるように、犬や猫も乳糖をうまく分解できず、下痢や嘔吐といった消化器症状を引き起こす可能性があるというものです。実際、動物病院でも「ヨーグルトをあげた翌日に下痢をした」「チーズを食べて吐いた」という相談を受けることは珍しくありません。

また、最近では“無添加”“ナチュラル”といったワードがついた乳製品も増え、「安心して与えられる」と考える飼い主さんもいますが、あくまで“人間にとっての安全”であって、“動物にとっての安全”とはイコールではありません。どんなに高品質な原料を使っていても、犬や猫の体に合っていなければ、健康被害につながるリスクは十分にあるのです。

私自身、過去に「チーズならご褒美になるし、ちょっとならいいよね」と軽く考えていたことがあります。でも、その子が翌日から何度も吐いてしまい、血液検査でも軽度の膵炎反応が見られたことがありました。体質や年齢によっては、わずかな量でも大きな負担になるということを、そのとき実感しました。

とくに注意したいのが、チーズに含まれるリンの量。犬や猫にとっては、カルシウムとのバランスがとても重要なのですが、チーズはリンが多く、与えすぎると腎臓に余計な負担をかけてしまいます。成長期だからといって安易にカルシウム補給目的で与えるのは、むしろ逆効果になりかねません。

このように、乳製品は一見健康に良さそうに見えて、実は落とし穴も多い食品です。本記事では、乳製品による健康トラブルの背景と、獣医師として現場で感じているリスク、そして安全に付き合うためのポイントを、6章にわたって丁寧にお伝えしていきます。

次章では、「犬・猫における乳糖不耐症とは何か?」を掘り下げ、症状や見極め方について詳しく解説します。

なぜ乳製品でお腹を壊すのか?犬・猫の「乳糖不耐症」を正しく知る

乳製品を与えた翌日、「うんちが柔らかいな」「お腹が鳴ってる…?」と不安になったことはありませんか?そんなとき、真っ先に疑ってほしいのが「乳糖不耐症」です。これは、乳製品に含まれる“乳糖(ラクトース)”という成分を体内でうまく分解できない体質のことで、犬や猫では決して珍しくありません。

実際、私がこれまで診てきた犬猫たちの中にも、「ヨーグルトが好きで毎日あげてたけど、実はずっと軟便気味だった」と、後からわかるケースが何件もありました。見た目に元気そうだからといって、体内の消化がうまくいっているとは限らないのです。

そもそも犬や猫は、離乳と同時に乳糖を分解する酵素——ラクターゼの分泌が減っていきます。つまり、大人になるほど乳糖の処理が難しくなるわけです。それにもかかわらず、健康のため、またはご褒美として乳製品を与える習慣があると、じわじわと腸内に負担をかけてしまうのです。

乳糖が腸で分解されずに残ると、腸内の細菌によって発酵が起き、ガスがたまり、お腹が張る、下痢をする、さらには吐き気を催すこともあります。こうした症状は、“アレルギー”とはまた違い、じわじわと腸内環境を乱すタイプの不調です。

特に注意したいのが、以下のような症状が現れる場合です。

  • 排便回数が増える、便がゆるい
  • お腹がゴロゴロ鳴る
  • 食欲が落ちる
  • 活動量が減る、寝てばかりになる
  • 嘔吐(頻度は低いが見落としがち)

これらは、すぐに重症化するわけではありませんが、放っておくと栄養吸収の効率が落ち、慢性的な体調不良に繋がるおそれがあります。

私は個人的に、「うちの子は喜ぶから」という理由だけで与える食材には慎重になるべきだと考えています。喜ぶ=体に良い、ではありません。犬や猫は自分で体調をコントロールすることができない分、飼い主が“判断”を担う立場であることを忘れてはいけないと思うのです。

なお、「以前は平気だったのに最近はお腹を壊すようになった」というケースも多く見られます。年齢や体調によって乳糖の消化能力は変化するため、過去の体験が今の安全性を保証するものではありません。

次章では、チーズ・ヨーグルトといった具体的な乳製品の種類ごとに、どのようなリスクや特徴があるのかを詳しく見ていきます。見落としがちな“成分表”の落とし穴についても触れていきます。

チーズとヨーグルト、それぞれの“見えにくいリスク”

犬や猫に与えられる乳製品の中でも、特に多く選ばれがちなのが「チーズ」と「ヨーグルト」。どちらも人間にはなじみ深く、“健康に良いもの”というイメージが先行しがちです。しかし、ペットにとってそれが必ずしもプラスに働くとは限りません。むしろ、種類によっては体への負担になることもあるのです。

まずチーズですが、見た目は小さくても塩分・脂肪・リンを多く含んでおり、犬猫の身体には重たすぎることがあります。特に気をつけたいのが「プロセスチーズ」。市販品の多くは保存性を高めるために塩分が高めで、長期的に与えると腎臓や心臓に負担がかかる恐れがあります。ナチュラルチーズであっても、脂質の量やリンとのバランスを考慮しなければなりません。

私の飼っていた犬も、ご褒美代わりに与えていたプロセスチーズが、思いのほか体に負担をかけていたことがありました。定期検査で数値が乱れはじめたとき、「あのひと口の習慣」が原因だったかもしれないと気づいたときには、正直後悔しました。嗜好性の高さだけで判断していた自分の甘さを痛感しました。

一方のヨーグルト。こちらは「乳酸菌でお腹に良さそう」との期待から選ぶ飼い主さんも多いですが、注意点は少なくありません。市販の加糖ヨーグルトには砂糖や香料、さらには犬猫にとって危険なキシリトールが含まれていることもあり、腸内環境の改善どころか中毒症状を引き起こす可能性さえあります。

無糖ヨーグルトであっても、“乳酸菌の種類が犬猫の腸内に合うかどうか”という視点は見落とされがちです。すべての善玉菌が、すべての動物にとって善玉になるとは限りません。しかも、ヨーグルトのたんぱく質量は意外と高く、腎機能が低下している子にはむしろ慎重になるべき食品です。

特に「ギリシャヨーグルト」のように濃縮されたタイプは、一見ヘルシーでも負担は大きい傾向があります。与える量を誤れば、知らぬ間に体調を崩してしまうことにもなりかねません。

筆者としての正直な思いを述べるなら、乳製品は“あげない方が無難”です。どうしても与えたい場合は、ご褒美として“週に数回・ごく少量”を基本にし、必ずその子の体調や年齢に合わせて見極めることが大切だと思います。個体差が非常に大きいため、まわりの子が平気だからといって、自分のペットにも当てはめないよう注意しましょう。

次章では、「どうしても乳製品をあげたいときの対処法」として、与えても比較的安全とされる目安の量や頻度、そして与え方の工夫についてお話ししていきます。

それでも与えたいなら──“安全に付き合うための工夫”とは

「チーズが大好きで、これだけはやめられない」「ヨーグルトを混ぜるとごはんの食いつきが格段に良くなる」。こんな声をよく耳にします。たしかに乳製品の香りや舌触りは、犬や猫にとって強い魅力があります。完全に禁止するのは難しい、という飼い主さんの気持ちも理解できます。

だからこそ、与えるなら“あくまで体に負担をかけない範囲で”という視点が欠かせません。ここでは、乳製品とうまく付き合うための現実的なポイントをご紹介します。

■ まずは“ほんのひと舐め”から始める

最初に大切なのは、どんなに少量でも、いきなり常食にはしないこと。私が推奨しているのは、まず“ひと舐め”程度からスタートし、1〜2日かけて様子をよく観察する方法です。軟便になったり、吐き戻したり、いつもと様子が違うようなら、その子の体質に合っていないと判断して、即中止すべきです。

ここで重要なのは、「少量なら大丈夫だったから続けよう」ではなく、「問題が出なかった=今は偶然セーフだった可能性もある」と慎重にとらえる姿勢です。

■ 頻度は“週1〜2回”が限界と考える

「少しなら平気そうだった」としても、それを毎日続けるのは避けるべきです。体は見えないところで負担を溜めていきます。特に脂質やリンの摂取が慢性的になると、腎臓へのダメージがじわじわと現れてきます。

私自身、かつて“毎日少しずつ与えていたチーズ”が原因で、腎機能に影響が出たと思われる症例を目の当たりにしました。飼い主さんもまさか、それが原因になるとは思っていなかったと、深く後悔されていました。

そういった経験から言えるのは、たとえ反応が良くても、乳製品は“特別なときだけ”にするのが正解ということ。目安としては、週に1〜2回、ごく少量。あくまでご褒美や投薬補助など、限定的な用途に留めるのが無難です。

■ “何を与えるか”だけでなく“何が入っているか”にも注目を

「犬用チーズだから安心」「プレーンヨーグルトだから大丈夫」と思っていませんか?商品名や見た目だけで判断せず、裏面の成分表示は必ず確認してほしいところです。

無糖・無添加と明記されていても、香料や安定剤、保存料が含まれていることがあります。特に“犬用”とラベルがあっても、脂質やリンの量が多ければ意味はありません。また、人間用のヨーグルトはキシリトールや糖類が添加されている場合もあり、知らずに危険なものを与えてしまっているケースもあります。

選ぶなら、無糖・無脂肪に近いプレーンヨーグルトがまだ安全な部類。チーズの場合は、極力塩分・脂質が抑えられた犬猫向け商品を慎重に選ぶようにしましょう。

■ “なぜそれを与えるのか”を見直すことも必要

正直に言います。私自身もかつて、愛犬が嬉しそうにチーズを食べる姿を見て「この子が喜ぶなら、少しぐらい…」と思ったことがあります。でもそれって本当に、健康のためなんでしょうか?どこかで「可愛い反応が見たい」自分の気持ちが先行していたことを認めざるを得ませんでした。

今は、「喜ぶ=正しい」ではないと心に決めています。愛情があるからこそ、あえて与えない選択をするのも飼い主の責任です。もちろん、それでもどうしても与えたいときは、安全性を徹底的にチェックし、最小限に抑える。その覚悟があって初めて、“共に長く健康で過ごす”ことにつながると私は信じています。

次章では、実際に現場で見てきた“乳製品トラブル”の具体例をご紹介しながら、どこに落とし穴があるのかを明らかにしていきます。

実際にあった「乳製品トラブル」──見落とされがちなリスクとは?

ここでは、私がこれまでに経験した中で特に印象に残っている、乳製品にまつわるトラブル事例をご紹介します。どのケースも「まさか、あのチーズやヨーグルトが原因だったとは…」という飼い主さんの言葉が印象的でした。私自身も、改めて乳製品の影響の大きさを痛感した出来事ばかりです。

■ ケース1:食欲が落ちた高齢猫──原因は“日課のヨーグルト”

13歳の雌猫。以前から便通をよくするために、毎朝スプーン1杯のヨーグルトを与えていたそうです。最初は問題なく食べていたものの、ある時期から食欲が落ち、活動量も減少。飼い主さんは「年齢のせい」と考えていました。

しかし検査の結果、腎機能の数値が基準をやや上回っており、ミネラルバランスの乱れも見られました。ヨーグルト自体は無糖のプレーンタイプでしたが、たんぱく質とリンの摂取が地味に影響を及ぼしていたようです。

ヨーグルトは“健康食品”というイメージがありますが、猫にとっては腎臓への負担になる側面もあると、改めて考えさせられた症例でした。

■ ケース2:繰り返す軟便の犬──意外な犯人は“犬用チーズ”

5歳の小型犬。定期的に軟便があり、時には食欲も落ちるという相談を受けました。食事はバランスの良い総合栄養食で、運動量も問題なし。原因がなかなか特定できずにいたところ、毎日の「おやつ」として与えていた犬用チーズに着目。

成分表示を詳しく確認したところ、脂質とリンの含有量が高めであることが判明。与えるのをやめたところ、数日で便の状態が安定し、体調も改善しました。

“犬用”だからといって過信は禁物。こうしたケースは実はかなり多く、飼い主さんの思いやりが裏目に出てしまう典型ともいえます。

■ ケース3:“薬のご褒美”が習慣化し、逆に健康を損ねた例

ある中型犬は、毎朝の薬を飲ませるときにプロセスチーズで包んでいたそうです。投薬補助としては確かに効果的でしたが、チーズの塩分や脂質、添加物を毎日摂取することになり、半年後には軽度の肝数値の上昇と体重増加が見られるようになりました。

飼い主さんは「薬を飲ませるためだったのに、健康を崩すとは思わなかった」と話していましたが、やはり“ご褒美の頻度と質”は慎重に選ばなければいけないと痛感した一件です。


■ 筆者として伝えたいこと

乳製品によるトラブルは、症状がじわじわ出てくるぶん、気づきにくいものです。しかも、愛情があるがゆえに「うちの子は大丈夫」と思い込んでしまい、対応が遅れることも少なくありません。

私がこの記事を通して伝えたいのは、乳製品そのものを全否定するわけではなく、「本当にその子に合っているのか」を冷静に判断することの大切さです。体に合わないものを、思い出や習慣の延長で与えてしまっていないか――それを見直すだけでも、健康寿命を延ばせる可能性があるのです。

次はいよいよ最終章。この記事を通して私自身が感じたこと、そして飼い主さんに届けたい思いを、率直な言葉で綴らせていただきます。

乳製品との向き合い方──筆者として伝えたい本音

ここまでお読みいただきありがとうございます。本記事では、乳製品が犬や猫にとって思わぬリスクとなること、そして与える際にどのような注意が必要かをお伝えしてきました。

この記事を通して私が一番伝えたかったのは、「情報に流されず、自分の目で確かめる姿勢」の大切さです。チーズやヨーグルトは、人間にとっては“体に良い”イメージのある食品です。だからこそ、ついその延長線上で「少しなら犬猫にも良いはず」と思ってしまう。私自身もそうでした。

でも、犬や猫の体は私たちとはまったく違う仕組みで動いています。消化酵素の種類、腎臓の負担耐性、体重に対する脂質や塩分の影響…。一見大丈夫そうでも、体の内側では静かにSOSが出ていることもあるのです。

私は、乳製品を完全に禁止するべきとは思いません。ただし、それが“嗜好品”であることを忘れてはいけないとも思っています。与えるなら、その背景にある知識やリスクをきちんと理解したうえで、ごく限定的に、体調を見ながら慎重に。そんなふうに“責任ある選択”ができる飼い主さんが、これから増えていってほしいと願っています。

ペットは自分で「これは合わないからやめる」と言えません。その代わりに、私たちが代弁し、守る必要があります。だからこそ、「喜ぶ顔が見たい」という気持ちと、「健康で長生きしてほしい」という願いのバランスをとることが、飼い主としての大切な役割だと私は考えています。

もし、この記事が少しでも“日々の習慣を見直すきっかけ”になったとしたら、それほど嬉しいことはありません。大切な家族が、できるだけ長く元気にそばにいてくれるように。そのための一歩として、今日から“与える前に一呼吸おく”意識を持っていただけたら幸いです。


※この記事は筆者の実体験と現場での観察に基づいて執筆したものであり、個体差のあるペットの健康状態に応じては、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。