ペットを飼うのが不安なあなたへ|後悔しないための考え方と準備ガイド【全8章】

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その不安こそ、飼い主としての資質かもしれない

「本当に飼えるのかな…」。
この一言に詰まっているのは、決して弱さではありません。むしろ、その迷いや不安こそが、命と真剣に向き合おうとするあなたの誠実さの証なのです。

最近は、SNSや動画サイトで可愛らしいペットの姿を見る機会が増え、飼うことへの憧れが高まりやすい一方で、「勢いだけで飼ってしまうこと」への危うさも広がっています。だからこそ、踏み出す前に不安になるのは、とても健全なことです。

私自身も、初めて動物と暮らそうとしたとき、「本当に責任を持てるのか」「途中で投げ出したくなったらどうしよう」と何度も自問しました。そのたびに気づかされたのは、「不安があるからこそ、準備を丁寧に進めよう」と思える自分がいるということでした。

ペットを迎えるというのは、単なる所有ではありません。一つの命を預かる覚悟が求められます。そして、その第一歩は「自信」よりも「不安」から始まるものだと私は思います。自分を疑うような感情も、実はとても大切なセンサーなのです。

この連載では、そんな不安の正体をひとつずつ見つめ、飼い主になる前に知っておくべきことを丁寧に整理していきます。知識と視点を持つことで、不安は少しずつ具体的な準備へと変わっていくはずです。

焦らなくても大丈夫です。今、不安を感じているあなたは、もうすでに命と真剣に向き合おうとしているのですから。

ペットとの暮らしを「きれいごと抜き」で想像してみる

「ペットがいたら癒されそう」「毎日が楽しくなりそう」――
そんなふうに夢見る気持ち、よくわかります。私自身もそうでした。けれど、本当に大事なのは、可愛い瞬間だけじゃなくて、“現実の生活にどう組み込めるか”を真剣に考えることなんです。

たとえば、あなたはこんな日々を想像できますか?

  • 朝、目覚ましより早く起こされて、トイレの掃除から一日が始まる
  • 雨の日も風の日も、散歩はサボれない
  • 旅行や外食は「この子をどうするか?」が最優先
  • 仕事が忙しくても、体調が悪くても、世話は待ってくれない
  • 家具がボロボロになっても、「しつけ中だから仕方ない」と思える心の余裕

こうした“日常のリアル”を事前にしっかり思い描けるかどうかで、その後の満足度や後悔の少なさがまったく違ってきます
私はかつて、動物を迎えるか真剣に迷っていたとき、自分のスケジュール帳を開き、1週間の生活に“お世話タイム”を無理なく組み込めるか、実際にシミュレーションしてみました。結果、「いまの私は無理に飼うべきじゃない」と結論を出したことがあります。

それは“諦め”ではなく、“命への敬意”だと今では思っています。

そして忘れてはいけないのが、ペットの種類によって必要な時間やお世話の仕方は大きく違うということ。
犬は運動としつけが命、猫は環境と気配り、ウサギや小動物はケージ内の清潔管理が鍵だったりします。SNSでよく見かける「癒し動画」では伝わらない部分にこそ、本質があるんです。

「本当にこの生活を続けていけるか?」
その問いを自分にぶつけてみることは、命を預かる前にできる最大の誠意だと思います。

理想を持つことは悪くありません。でも、理想を現実に変えるには、きれいごとだけでは足りません。
そのギャップを、ひとつずつ埋めていく覚悟こそが、飼い主としての準備だと私は信じています。

「なんとなく」じゃ続かない。準備と時間管理のリアル

ペットと暮らすというのは、「毎日のルーティンに命が加わる」ということです。かわいがることも、もちろん大切。でも、それ以上に問われるのは**“どれだけ現実的に向き合えるか”**という視点です。
中でも大きなハードルになるのが、事前の準備と、日常生活における時間の捻出です。

生活環境は整っているか?──必要なのは「見た目」より「安全性」

まず、ペットを迎える前に整えるべき環境について考えてみましょう。

  • 電源コードや観葉植物など、誤飲や感電のリスクは?
  • 床材は滑りにくく、足腰にやさしい素材か?
  • 家具の配置は動きやすく、隠れられるスペースがあるか?

こうした“当たり前に見えること”を見落とすと、命に関わる事故が起きることもあります。私自身、犬を一時的に預かったとき、何気なく置いていたチョコレートに気づかず、慌てて病院へ駆け込んだ経験があります。ほんの一瞬の油断が、取り返しのつかないことを招く可能性がある。それを実感した出来事でした。

毎日、どれくらいの時間を使えるか?

動物は「忙しいから今日はなしね」と言って済む存在ではありません。
彼らは、食事・排泄・清掃・運動・スキンシップなど、毎日変わらぬケアを必要とします。

犬なら、朝晩の散歩に加えて、しつけや遊びの時間も必要。
猫でも、トイレの清掃やブラッシング、ストレス解消の遊びが求められます。
うさぎやハムスターだって、ケージ掃除や給水チェック、放し飼い時の見守りが欠かせません。

つまり、「お世話する時間を取る」のではなく、「お世話の時間を軸に生活を組む」くらいの意識が必要です。

私の場合は、毎日最低1時間半、完全に“ペットのためだけの時間”を確保できるかを基準に考えました。
結果的に、余裕がある日にはその何倍もの時間を共に過ごすようになりましたが、“確保できる最低ライン”を見積もることが現実的な判断軸になります。

続ける覚悟がない準備は、ただの気分転換

新しいケージやフードを買って「これで準備は万端!」と思ってしまう気持ち、よくわかります。けれど本当の意味での準備とは、“飼い始めた後に続けていける仕組み”をつくることです。

「どこにフードを買いに行くか?」「旅行の予定はどう調整するか?」「家族の協力は得られるか?」――
そのひとつひとつに、現実的な答えを用意しておくことが、のちの安心につながります。


「迎える準備」ではなく、「暮らし続ける覚悟」を持てているか。
そこに、本当の意味でのスタートラインがあると私は思います。

「いくらかかる?」より「備えていけるか」を考える

「ペットを飼いたいけど、お金が不安で…」という声は少なくありません。
確かに、生き物を育てるにはそれなりの費用がかかります。でも私が思うに、金額の多さそのものよりも、“想定外”にどう対応できるかの柔軟さのほうが、ずっと大切です。

初期費用より、継続費用を見つめよう

最初にかかるお金──ケージや食器、ワクチン、去勢・避妊手術など──は、ある意味「一度きり」の出費です。
それよりも現実的に直面するのは、**毎月、何年にもわたって発生する“固定費”**です。

  • フード代
  • トイレ用品やシーツ
  • 年1〜2回の健康診断やワクチン接種
  • 急な体調不良による診察・検査費用

犬や猫なら、月に5,000〜15,000円程度は当たり前ですし、病気をしたら一度の通院で2〜3万円飛んでいくことも。
私は以前、愛犬が突然食べなくなり、検査と点滴で7万円ほどかかったことがあります。そのときに実感しました。「貯金があるかどうか」より、「迷わず動ける気持ちの余裕」が備えなのだと。

ペット保険は“備えの選択肢”の一つ

最近ではペット保険も普及してきましたが、保険に頼るか、自分で積み立てるかは人それぞれ。
私個人の考えでは、**「保険に入っているから安心」ではなく、「万一を前提に計画を立てているから安心」**という考え方を持つべきだと思っています。

保険に頼ることが目的ではなく、あくまで“予想外の事態に対応できる選択肢をいくつ持っているか”が肝です。

「お金があれば飼える」ではない

私が一番強く伝えたいのはここです。
“飼う余裕”と“育て続ける余裕”は、まったく別物です。

高額な純血種を買うよりも、毎日の小さな出費をどう積み重ねていけるか。
お金のことはきれいごとでは済みません。ですが、逆に言えば、しっかり計画し、備えることで大半の不安は軽減できます。


「この子が病気になったとき、自分は迷わず病院に連れていけるか」
この問いに「はい」と答えられるような準備。それが、金額よりもはるかに大切な“飼い主の責任感”ではないでしょうか。

自分ひとりの決断ではない。「一緒に暮らす人」との対話が鍵

ペットを飼うと決めることは、個人的な決意に見えて、実は周囲の人間関係にも深く影響を及ぼす選択です。
同居する家族やパートナー、ルームメイトがいる場合、彼らもまた、その命とともに生活をしていくことになるのです。

「自分だけが頑張ればいい」は、長続きしない

私がかつて出会ったある夫婦は、奥さんが強い希望で犬を飼い始めたものの、家事・育児・犬の世話が重なり、パートナーと衝突が増えたと言っていました。最初は「全部自分でやるから大丈夫」と言っていたはずなのに、数ヶ月後には「協力してくれない」と不満が爆発。
このケース、実は珍しくありません。

ペットの世話は日々の連携プレーです。
誰がごはんを用意するのか、誰がトイレを掃除するのか、散歩や病院への付き添いは誰がするのか。こうした役割が曖昧なままでは、いずれストレスが積み重なってしまいます。

アレルギーや価値観の違いは、避けて通れない現実

「家族の誰かが動物にアレルギーがある」
「毛が落ちるのがイヤだと感じる人がいる」
「ペットを“家族”と思える人と、あくまで“動物”として距離を置きたい人」

それぞれの立場には、理由や感情があるものです。だからこそ、無理に押し切るのではなく、事前にとことん話し合うことが、共存のスタートラインになります。

もしも誰かが反対する理由があるのなら、それを無視せずに、じっくり耳を傾けるべきです。
本当にその命を迎えるべきタイミングなのか、一度立ち止まって考えてみる勇気もまた、大事な責任のひとつだと思います。

ペットは家族になる存在。だからこそ「合意」もまた家族としての第一歩

ペットは“モノ”ではありません。
一緒に笑い、一緒に泣き、ともに時間を重ねていくかけがえのない存在になります。
その命を迎えるということは、あなた自身だけでなく、周りの人の生活にも新しい意味をもたらします。

だから私はこう思います。
「みんなで迎えられる命」は、その分、もっと大切にされる。


もし今、あなたの中に少しでも迷いやズレを感じているなら、それを言葉にして、共有してみてください。
命と暮らすという選択において、対話を避けてはいけないのです。

「いない時間」をどうするかが、意外と盲点になる

ペットを迎えようと考えるとき、多くの人は「一緒にいる時間」ばかりに意識が向きます。
でも、実は本当に大事なのはその逆。“一緒にいられない時間をどう乗り切るか”という視点こそ、長く幸せに暮らすためのカギになります。

たった数時間でも、ペットにとっては長い

私自身、かつて犬を数日間預かったことがあります。散歩やごはんの時間は完璧に守ったつもりでしたが、仕事で遅くなってしまった日、家に帰ったときのあの不安そうな目を、今でも思い出します。
「わかってたのに、ちゃんと準備できてなかったな」と胸が痛くなった瞬間でした。

人間にとっては数時間の外出でも、ペットにとっては不安や孤独を感じる長い時間。
だからこそ、留守番中もできるだけ安心して過ごせる環境を整える必要があります。

  • 安全に過ごせるスペース(ケージやサークルなど)
  • 部屋の温度管理
  • 自動給餌器や給水器の活用
  • 留守中の様子を見られるカメラの導入

こうした準備が、ペットの安心にも、自分自身の安心にもつながります。

長期の外出や旅行は“代替案”が命を守る

泊まりがけの旅行や帰省、急な出張。どんなに気をつけていても、“いつも通り”にいかない日は必ず訪れます。

そのときに必要なのは、「どうにかする」ではなく、“どうするかを先に決めておく”ことです。

  • 家族や友人に預ける
  • ペットホテルや動物病院の一時預かりを利用する
  • ペットシッターに依頼する

私の知人は、あらかじめ信頼できるペットホテルを何軒か見学し、短時間のお試し預かりをして、犬に合う場所を選んでいました。その丁寧な姿勢に「これが本当の“備える”ということだ」と感心したものです。

非常時にどうするか?も「飼い主の責任」

災害、事故、突然の入院…。人生には思いがけない出来事がつきものです。
そんなとき、あなたに代わってペットを守ってくれる人はいますか?

万が一に備えて――

  • 緊急連絡先と、預け先のリスト
  • 食べているフードや薬のメモ
  • ペットの性格や健康情報を書いた「引き継ぎノート」

こうしたものを事前に用意しておくだけで、もしものときにも命を守ることができます。


「この子のいない時間を、どう安全に、安心にしてあげられるか」
この問いに向き合うことは、飼い主としての優しさであり、覚悟でもあると私は思います。

「いつまでも元気」じゃない。そのとき、どう支えるか

ペットを迎えるとき、多くの人は“今”の姿を見て決断します。
元気で、可愛くて、愛嬌たっぷりな姿に心を奪われるのは当然です。けれど、本当に考えておくべきなのは、その子が年をとったときのことではないでしょうか。

老いは、ある日突然始まる

私の知人が飼っていた猫は、10歳を過ぎた頃から急に足腰が弱くなり、次第に夜鳴きや粗相が増え、かつての活発な姿が見る影もなくなったそうです。
そのとき彼女が言った言葉が忘れられません。

「愛おしさが、手間の中に埋もれてしまいそうになる瞬間があった。でも、それでもやっぱり、この子と生きていきたいって思った」

老化は、見た目や性格にも変化をもたらします。
食が細くなり、動きが鈍くなり、時には認知症のような症状が出ることも。トイレを失敗したり、夜に落ち着かず徘徊したり。可愛いだけでは抱えきれない介護の現実が、少しずつ生活に入り込んできます。

環境と心の準備、どちらも必要になる

高齢期に備えてできることはたくさんあります。

  • 段差をなくし、滑らない床に変える
  • 食べやすい柔らかいごはんに切り替える
  • 定期的に健康チェックを受ける
  • 夜間の安心感を高める照明や空調を整える

でも一番大事なのは、こちらの“気持ち”をどう保つかです。
いつまで元気でいてくれるのかは誰にもわかりません。だからこそ、今のうちから「いつか必ず訪れるその時」に向けて、心の準備をしておくことが必要なのだと思います。

「最期まで一緒にいよう」と決めることが、何よりの覚悟

命あるものに“永遠”はありません。
それは悲しい事実であると同時に、一緒に過ごす時間の尊さを教えてくれる現実でもあります。

「この子が年をとっても、私の生活の中に居場所をつくってあげられるか」
「介護が必要になったとき、投げ出さずに支えられるか」

そんな問いを、ペットを迎える前の自分に投げかけてみてください。
それができるなら、きっとあなたは“本当の意味での飼い主”になれると思います。


ペットの老いと向き合うことは、切ないだけではありません。
不自由になっていく姿にも、静かな美しさと深い絆が宿っていく。
それを知っている人だけが味わえる、尊い時間があると私は思います。

それでも、一緒に生きたいと思えるあなたへ

ここまで読み進めてくださったあなたは、きっと「かわいいから飼いたい」という気持ちの奥に、命と誠実に向き合いたいという覚悟を持っている方だと思います。

世の中には、「飼ってみたけど、思っていたのと違った」「やっぱり無理だった」と、手放される命が数え切れないほど存在します。
だからこそ私は、「飼う前に不安になること」は悪いことじゃない、と強く伝えたいのです。むしろそれは、心のどこかで“命の重み”をちゃんと感じ取っている証拠ではないでしょうか。

ペットは、鏡のような存在だと思う

私が思うに、ペットというのは人間の鏡のような存在です。
その子が元気で明るいときは、自分の心にも余裕があるとき。
その子が元気をなくしたとき、自分もどこか疲れている。
そして何より、愛情を注いだぶんだけ、言葉のいらない“絆”というかたちで返してくれる

お金も、時間も、手間もかかる。
でも、それを差し引いても余るほどの、あたたかさと学びが、ペットとの暮らしにはあります。

完璧じゃなくていい。ただ、誠実であればいい

私は、ペットを飼うのに「完璧な人間」である必要はないと思っています。
忙しい日もあるし、体調がすぐれないときだってある。
だけど、そんな日々のなかでも「この子のことを考えている」「どうすればもっと快適に暮らせるか悩んでいる」――そういう小さな積み重ねが、本当の意味での“飼い主になる”ということなのではないでしょうか。

あなたのその迷いは、希望の種かもしれない

「本当に飼えるかな…」
そう迷ったときには、どうか思い出してください。
その気持ちこそが、命を軽く見ていない何よりの証明だということを。

そしてもし、この記事があなたの迷いに少しでも寄り添えたなら、
私は心からうれしく思います。


小さな命と生きていくことは、決して軽くはないけれど、想像以上に豊かで深い時間を連れてきてくれる。
あなたがその一歩を踏み出す日が来たなら、どうか誇りと愛を持って、その命と向き合ってください。

きっと、その出会いはあなたの人生に、静かで確かな光を灯してくれるはずです。