犬のおしっこが健康のバロメーターになる理由
犬は言葉で体調を伝えることができないため、飼い主が日々の様子を観察して異変を見逃さないことがとても重要です。中でも「おしっこ」は、犬の健康状態を把握するうえで非常に重要なサインのひとつです。排泄は毎日行われる行動であり、変化に気づきやすいポイントでもあります。
犬のおしっこの色、量、ニオイ、頻度、排尿時の様子などは、腎臓・肝臓・膀胱などの内臓の不調や感染症、脱水、糖尿病といった疾患の兆候を示していることがあります。つまり、おしっこを日常的に観察することで、重大な病気を早期に発見し、適切な治療につなげることが可能になります。
また、シニア期に入ると体内の機能が低下しやすくなるため、おしっこに現れる異常は見逃せません。特に持病を抱えている犬や、食事療法中の犬はなおさら注意が必要です。
このように、犬の「おしっこチェック」は健康管理の第一歩です。本記事では、犬がしていたら注意すべき「危険なおしっこ」5つを取り上げ、それぞれの症状が示す可能性のある病気や対処法について解説していきます。
濃い黄色やオレンジ色の尿が続くときに考えられること

犬のおしっこの色が通常よりも濃い黄色、あるいはオレンジがかっている場合、注意が必要です。これは体内で異常が起きているサインであり、早期に原因を探ることが重要です。
濃い黄色の尿が示す可能性
濃い黄色のおしっこは、脱水の可能性を示唆しています。犬が十分な水分を摂取できていないと、尿が濃縮されて黄色味が強くなります。夏場や激しい運動後などに一時的に見られることはありますが、慢性的に続く場合は要注意です。
脱水状態が続くと、腎臓に負担がかかり、腎不全のリスクを高めます。特に高齢犬では脱水が進行しやすいため、尿の色だけでなく、飲水量や皮膚の張りなども併せて確認しましょう。
オレンジ色の尿が示す可能性
一方で、尿がオレンジ色になっている場合は、肝臓や胆のうの異常が疑われます。肝機能が低下すると、胆汁色素であるビリルビンが過剰に排出され、尿に色がつくことがあります。これは「黄疸」の初期症状の一部であり、放置すると命にかかわることもあるため、早急な動物病院での診察が必要です。
飼い主が取るべき行動
尿の色が明らかに普段と違う場合は、まず飲水量や環境の変化を確認しましょう。それでも改善が見られない場合は、尿を持参して獣医に相談するのが望ましいです。ペット用の尿採取キットや吸収パッドなどを活用すると、自宅でも簡単にサンプルを取ることができます。
このように、「濃い色のおしっこ」は単なる生理現象にとどまらず、体内で起きている異変の兆候かもしれません。次章では、「ピンク色や赤色、血が混じった尿」が示すリスクについて解説していきます。
ピンク色や赤色、血が混じった尿に注意

犬の尿に血が混じる、あるいは尿がピンク色や赤みを帯びている場合は、非常に重大な健康問題が潜んでいる可能性があります。これは単なるケガや一時的な炎症ではなく、深刻な病気のサインであることも少なくありません。
血尿の主な原因
血が混じった尿(血尿)の原因として最も多いのは「膀胱炎」です。特に細菌性膀胱炎は、トイレの我慢や不衛生な環境が引き金になることが多く、オスよりもメス犬に多く見られます。
他にも、以下のような病気が疑われます。
- 尿路結石:尿道や膀胱に石ができ、粘膜を傷つけて出血します。血尿と同時に、排尿時に痛がる、頻尿になるといった症状が見られることが多いです。
- 腎盂腎炎:腎臓から膀胱への尿路に感染が広がると、腎盂腎炎になります。発熱や元気消失など全身症状を伴う場合はすぐに受診が必要です。
- 腫瘍やポリープ:高齢犬では膀胱や尿道に腫瘍ができることがあり、その影響で出血が生じます。特に何度も血尿を繰り返す場合は、精密検査が求められます。
色の違いによる見極めポイント
- ピンク色の尿:出血量が少ない場合や、初期症状であることが多い。
- 鮮やかな赤色の尿:出血が比較的多く、尿道や膀胱の損傷、結石による出血が疑われます。
- 赤黒い尿:血液が酸化している場合や、出血が時間経過している可能性があるため注意が必要です。
飼い主が行うべき対処法
血尿を発見したら、まず落ち着いて尿の状態を観察し、以下の点をメモしておきましょう。
- 尿の色の変化がいつからか
- 排尿の回数や様子(痛がる、時間がかかる、回数が多いなど)
- 食欲や元気の有無
これらの情報を持って、なるべく早く動物病院で診察を受けましょう。血尿は時間の経過とともに症状が悪化することもあり、早期発見・早期治療が鍵になります。
次章では、「白く濁った尿、異常なニオイがある尿」が示す健康リスクについて詳しく解説します。
白く濁った尿や異常なニオイの正体とは?

犬の尿が普段より白く濁っていたり、強烈なアンモニア臭や異臭を放っている場合、体内で細菌や老廃物が異常に増殖している可能性があります。こうした症状は、見逃すと重篤な感染症や内臓疾患に発展するおそれがあるため、早めの対処が必要です。
白く濁った尿の主な原因
白濁した尿の正体は、多くの場合、尿に含まれる白血球・膿・結晶・細菌などの増加によるものです。これらが尿中に現れる原因として、以下の病気が挙げられます。
- 膀胱炎・尿道炎:炎症により膿や白血球が混じり、尿が白濁します。特に頻尿や排尿痛を伴うことが多く、慢性化しやすいのが特徴です。
- 尿路感染症:細菌が尿路に感染している状態で、腎臓まで感染が広がるとより深刻です。発熱や食欲不振などの全身症状も併発します。
- ストルバイト結晶(リン酸アンモニウムマグネシウム結晶):尿がアルカリ性に傾くとできやすく、白く濁った尿とともに、尿石症のリスクが高まります。
尿のニオイが強くなる理由
犬の尿が強いアンモニア臭や甘ったるいニオイを放つ場合も、体内の異常が背景にあります。
- アンモニア臭が強い:尿中の細菌が尿素を分解し、アンモニアを大量に発生させるためです。これは主に膀胱炎や尿路感染症が原因です。
- 甘いニオイ(フルーツのようなニオイ):糖尿病の可能性があります。血糖値が異常に高くなると、尿中に糖が混じり、独特なニオイを放つようになります。
飼い主が注目すべきポイント
尿が白く濁っていたり、ニオイがいつもと違うと感じたら、以下の点を確認しましょう。
- 尿の濁りが毎回あるか、一時的なものか
- 飲水量や食欲に変化がないか
- トイレの回数、時間、しぐさの変化
これらを記録し、可能であれば尿サンプルを採取して動物病院に持参するのが理想的です。適切な検査と早期の投薬治療により、多くの感染症は改善します。
次章では、「排尿回数が極端に少ない、または多いときに注意すべき病気」について詳しく解説します。
排尿回数が異常に少ない・多い場合の危険信号

犬の排尿回数は健康状態に直結する重要な観察ポイントです。通常、成犬では1日あたり3~5回程度の排尿が一般的とされますが、それよりも明らかに多すぎたり少なすぎたりする場合には、何らかの疾患や体調不良が関与している可能性があります。
排尿回数が多すぎるケース
1日に何度もトイレに行き、少量ずつ排尿する場合や、明らかに頻尿が続く場合には、以下のような病気が考えられます。
- 膀胱炎:膀胱に炎症があると、少量の尿しかたまっていなくても頻繁に排尿したくなります。排尿時に痛がる仕草や、血尿を伴うこともあります。
- 腎不全:腎臓の機能が低下してくると、体内の老廃物をうまく濾過できず、大量の尿を出すようになります(多尿)。同時に飲水量が増えることも特徴です。
- 糖尿病:血糖値が高い状態が続くと、尿中に糖が出るため、それを排出するために排尿回数が増加します。水を大量に飲むようになった場合は特に注意が必要です。
排尿回数が少なすぎるケース
逆に、愛犬がほとんど排尿していない場合、以下のような緊急性の高い病気の可能性があります。
- 尿閉(にょうへい):尿道結石や腫瘍などで尿道が塞がれてしまう状態です。膀胱がパンパンに張っているのに尿が出ない場合、非常に危険で、早急な治療が必要です。
- 脱水や腎不全の末期症状:体内に水分が不足し、尿を作り出す機能が極端に低下している状態です。尿が出ない、あるいは非常に濃縮された少量の尿しか出ないことがあります。
飼い主ができる観察と記録
- 排尿回数をメモ:1日のトイレの回数と量を記録しましょう。習慣化することで異常に早く気づくことができます。
- 飲水量との関連を観察:水を大量に飲んでいるのに尿が少ない、あるいは逆に飲水量が少ないのに頻尿である場合は、異常のサインです。
- 排尿の様子をチェック:力んでいる、痛がる、出にくそうにしている場合は、早めに獣医師に相談しましょう。
排尿回数の変化は軽視されがちですが、病気の早期発見に大きく役立ちます。次章では、「排尿時に痛がる、震える、落ち着きがない」など、排尿時の行動に表れる異常について解説します。
排尿時の異常行動が示すSOSサイン

排尿そのものだけでなく、「排尿時のしぐさや行動の異常」も、犬の健康状態を示す重要なサインです。飼い主が見落としがちなこうした行動の変化には、身体のどこかに異常が潜んでいることがあります。
よく見られる異常行動とその背景
以下のような行動が見られる場合、何らかの痛みや違和感がある可能性が高いため注意が必要です。
- 排尿時に鳴く、うなる
犬が排尿時に鳴くようであれば、尿道や膀胱、腎臓に痛みがあることを示唆しています。特に尿路結石や膀胱炎の際に多く見られる反応です。 - 排尿姿勢をとるが出ない
トイレに行く素振りはあるのに、実際には尿が出ない状態は「尿閉」や「膀胱の無力症」が疑われます。これが続くと膀胱破裂の危険すらあるため、即座に動物病院へ行く必要があります。 - 震える、体を丸める、ソワソワする
排尿時に震えたり、背中を丸めてうずくまったり、落ち着かない様子を見せる場合は、内臓痛や感染による不快感が考えられます。これは腎盂腎炎や膀胱炎に見られる典型的な症状です。 - 排尿後に陰部をしきりに舐める
違和感や痛み、あるいは炎症があることを訴えている可能性があります。メス犬の場合、外陰部の異常も関係してくるため注意が必要です。
こうしたサインを見逃さないために
行動異常に気づくためには、排尿の瞬間をなるべく日常的に観察する習慣をつけることが大切です。犬の排尿行動は数十秒で終わるため、注意していなければ見逃してしまいがちです。
また、異常が見られたときには「動画で記録」しておくと、動物病院での診察時に非常に有効です。飼い主が言葉で説明しきれない細かな動作も、映像なら正確に伝えることができます。
排尿時の行動の変化は、言葉を持たない犬が出す「SOSサイン」のひとつです。次章では、「病気サインが見られたときの正しい対処法と予防法」について詳しく解説します。
おしっこの異常に気づいたときの正しい対処法と予防策

犬のおしっこに異常が見られた場合、飼い主が慌てずに適切な対応を取ることが、病気の早期発見と重症化の防止につながります。また、日常的な予防策を講じることで、トラブルの発生を未然に防ぐことも可能です。
異常を見つけた際の基本的な対処ステップ
- 症状の記録をとる
異常があった日時、尿の色・量・ニオイ、排尿の頻度、行動の変化などを詳細に記録しておきましょう。スマートフォンで写真や動画を撮影するのも有効です。 - 尿を採取しておく
獣医師の診断に役立つため、可能であれば尿サンプルを採取して持参します。市販のペット用採尿シートやスポイトを活用すると自宅でも対応可能です。 - 速やかに動物病院を受診する
一時的な変化か、病気によるものかは見た目だけでは判断できません。専門的な検査を受けることで、適切な治療方針が決まります。特に、排尿困難・血尿・発熱・元気消失が伴う場合は早急な受診が必要です。
再発や悪化を防ぐ日常的な予防策
- 新鮮な水を常に用意する
脱水や尿路トラブルの予防には、十分な水分摂取が不可欠です。水飲み場を複数設置したり、飲水を促す工夫をしましょう。 - トイレを我慢させない
トイレを長時間我慢させることは膀胱炎や結石の原因になります。散歩の回数を増やすか、室内で自由に排泄できる環境を整えましょう。 - 食事管理を徹底する
ミネラルバランスに偏りがあると尿石ができやすくなります。獣医師の指導のもとで食事療法や療法食を取り入れると安心です。 - 定期的な健康診断を受ける
シニア犬や持病のある犬は特に、半年~年1回の健康診断をおすすめします。尿検査・血液検査などを通じて早期発見が可能になります。
犬の健康を守るためには、「異常に気づける目」と「すぐに行動できる備え」が欠かせません。最後の章では、日常の観察習慣をどう身につけるか、健康管理に役立つチェックリストをご紹介します。
今日からできる!犬のおしっこ健康チェック習慣と見守りのコツ

犬の健康維持において、日々のおしっこチェックは非常に有効な手段です。しかし、忙しい毎日の中で継続して観察するのは難しいと感じる方も多いかもしれません。そこで、誰でも無理なく続けられる「観察習慣の作り方」と「健康チェックのコツ」をご紹介します。
観察習慣を定着させるポイント
- 毎日のトイレタイムを“健康チェックタイム”にする
朝・夜の散歩や室内トイレのタイミングで、尿の色・量・ニオイ・頻度・排尿の様子を意識してチェックする習慣をつけましょう。特に、光の加減で見づらい夕方以降は懐中電灯や明るい場所を活用すると判断しやすくなります。 - 記録アプリや手帳を活用する
尿の状態を記録するために、ペットの健康管理アプリや簡単なメモ帳を使うと便利です。「いつもと違う」と思ったタイミングを残すことで、異常が継続しているか一時的なものかを見極めやすくなります。 - 家族間で情報を共有する
多頭飼いや家族でお世話をしている場合は、LINEグループやホワイトボードなどで排尿情報を共有しましょう。変化に早く気づくための体制を整えることが大切です。
健康チェックに役立つチェックリスト
以下の項目を毎日または定期的に確認することで、トラブルの早期発見につながります。
- 尿の色は透明~薄い黄色か?(濃い・赤い・白濁などは要注意)
- 尿のニオイはいつもと変わりないか?
- 排尿の回数は極端に多くないか、少なくないか?
- 排尿時に痛がったり震えたりしていないか?
- 陰部を過度に舐めたり、排尿後に落ち着きがない様子はないか?
飼い主が「気づける目」を持つことが何よりの予防
犬は不調を隠す習性があるため、外見上は元気でも、尿に異常が現れていることがあります。だからこそ、毎日の排泄をただの「用事」ではなく、「健康を知るサイン」として観察する意識を持ちましょう。
健康チェックは難しいことではありません。少しの関心と記録を続けるだけで、愛犬の命を守ることができます。