低血糖症とは?小型犬に特に多い理由
低血糖症の基本的な理解
低血糖症とは、血液中のブドウ糖(グルコース)の濃度が異常に低下する状態を指します。グルコースは体の主要なエネルギー源であり、特に脳や筋肉の正常な機能を維持するために欠かせません。犬においても同様で、血糖値が一定範囲を下回ると、ふらつき、元気消失、けいれん、昏睡などの深刻な症状が現れることがあります。
小型犬が低血糖症になりやすい理由
特に注意が必要なのが、チワワやトイプードル、ポメラニアンなどの超小型犬種です。これらの犬種が低血糖症にかかりやすい理由は主に以下の通りです。
- 体内のグリコーゲン貯蔵量が少ない
小型犬は体重が軽く、肝臓の大きさも小さいため、エネルギー源となるグリコーゲンを十分に蓄えることができません。そのため、空腹の時間が長引いたり、ストレスや興奮でエネルギーを急激に消費すると、血糖値が急激に低下しやすくなります。 - 代謝が早くエネルギー消費が激しい
小型犬は体温を維持するための代謝が高く、エネルギーを素早く使い切ってしまいます。特に子犬の場合、成長に必要なエネルギーも加わり、常に十分な栄養が必要です。 - 生後間もない子犬のリスクが高い
生後数週間〜数ヶ月の小型犬の子犬は、自力で血糖値を安定させる機能が未熟なため、特に低血糖症のリスクが高まります。離乳期や新しい環境への適応期には特に注意が必要です。
飼い主が知っておくべき初期症状
低血糖症は進行が早いため、早期発見と対応が非常に重要です。以下のような症状が見られた場合は、速やかに対処が必要です。
- ふらつき、よろめく
- 元気がなくなる、寝てばかりいる
- 手足の震え
- 意識がぼんやりする
- 嘔吐やけいれん(重症の場合)
このように、小型犬の低血糖症は命に関わる重大な疾患でありながら、初期症状は見落とされがちです。次章では、低血糖症を未然に防ぐための日常的な予防策について詳しく解説します。
日常生活でできる低血糖症の予防策

食事管理の徹底が最重要ポイント
低血糖症の予防には、何よりも安定した血糖値の維持が重要です。特に小型犬の場合、定期的な食事の提供が欠かせません。
- 1日3~4回の分食が理想的
空腹の時間が長くなるほど、血糖値の急降下リスクが高まります。成犬であっても1日2回では不十分な場合があり、特に子犬期は少量を3~4回に分けて与えるのがベストです。 - 高たんぱく・適度な炭水化物を含む食事
持続的にエネルギーを供給できるよう、急激に血糖値が上下しにくい食事を選ぶことが大切です。質の高い動物性たんぱく質と、低GI(血糖指数)の炭水化物を含むフードを選びましょう。 - トリーツやおやつも計画的に
ご褒美としてのおやつも、砂糖や脂質に偏らないバランスを考えた内容に。低血糖予防を目的に与える場合は、獣医師と相談の上、適切な栄養補助食品を活用するのが理想です。
環境と生活リズムの安定も不可欠
食事以外にも、以下のような生活習慣の見直しが低血糖症の予防に役立ちます。
- 毎日のリズムを整える
食事・散歩・遊び・休息の時間を一定に保つことで、体内リズムが安定し、ストレスによる代謝の乱れを防ぐことができます。 - 過度な運動や興奮を避ける
激しい運動や急な環境変化は、エネルギー消費を急増させる原因となります。特に暑さや寒さも血糖値に影響するため、適切な温度管理が必要です。 - ストレスを減らす工夫
来客、引っ越し、長時間の留守番など、小型犬にとって大きなストレスとなる出来事は注意が必要です。ストレスがきっかけで食欲不振になり、低血糖症を引き起こすケースもあります。
健康管理の一環としての体重と体調チェック
日々の観察も予防には欠かせません。急な体重減少や食欲の低下は、血糖値の不安定化のサインです。下記の項目を定期的にチェックしましょう。
- 食欲・排便・行動パターンに変化がないか
- 抱き上げたときの体重の感覚(痩せていないか)
- 目や表情の活力の有無
これらを日常的に観察することで、異変の早期発見が可能になります。
低血糖症の症状が出たときの応急処置と自宅でできる対処法

初期症状を見逃さないことが命を守る第一歩
低血糖症の怖さは、症状の進行が非常に早いことです。軽度のふらつきや元気消失から、わずか数十分でけいれんや昏睡状態に至るケースもあります。以下は早期に気付くための主な症状です。
- フラフラ歩く、バランスが取れない
- ぼんやりして反応が鈍い
- 歯のカチカチ音、震え
- 食欲がない、急に横になる
- 呼びかけに反応しない
このような兆候を見逃さず、すぐに対応することが重要です。
自宅でできる応急処置の手順
症状が軽度で意識がある場合は、自宅での応急処置により回復が見込めるケースがあります。以下の手順に従って対応してください。
- ブドウ糖液やハチミツを与える
市販のブドウ糖液(動物用または人間用)を、口の中に少量ずつ垂らします。なければ、ハチミツや砂糖水を代用しても構いません。指で歯茎や舌に塗りつけるようにしましょう。 - 様子を見ながら体温を保つ
低血糖症では体温が低下しがちです。タオルやブランケットで体を包み、保温に努めましょう。冷えた室温は症状を悪化させる原因になります。 - 意識回復後はすぐに食事を与える
甘いものだけでは血糖値が一時的に上がるだけで、再度急降下するおそれがあります。意識が戻ったらすぐに通常のフードを少量与え、安定したエネルギー補給を行います。
すぐに動物病院に連絡すべきケース
以下のような状態にある場合は、自宅での対応を中止し、すぐに動物病院へ連れて行ってください。
- 意識が完全にない、呼びかけに反応しない
- けいれんを起こしている
- ブドウ糖を与えても回復の兆候が見られない
- 呼吸が浅く、不規則
これらはすでに重度の低血糖状態にある可能性が高く、点滴や注射による緊急治療が必要です。
事前準備がトラブル回避につながる
低血糖症のリスクが高い犬種・年齢の愛犬がいる場合は、以下の準備をしておくと安心です。
- ブドウ糖液やハチミツを常備しておく
- 動物病院の連絡先をすぐに取り出せる場所に控える
- 外出先にも応急処置用品を持ち歩く
突発的な発症に備えることが、命を守る行動に直結します。
動物病院での診断と治療の流れ

診察時に獣医師が確認するポイント
低血糖症の疑いで動物病院を受診すると、まずは症状の重篤度と原因の特定が行われます。獣医師が注目するポイントは次の通りです。
- 発症時の状況と食事履歴
最後に食事をした時間や内容、発症直前の行動や環境変化が重要な手がかりになります。可能であれば、普段の食生活や持病の有無も伝えましょう。 - 体重・体温・血圧などのバイタルチェック
血糖値以外にも、全身状態の把握が必要です。特に体温が低い場合や、脱水症状がある場合は、迅速な治療が求められます。 - 血液検査での血糖値の確認
もっとも重要なのが、血糖値の数値です。一般的に、犬の正常な血糖値は約80〜120 mg/dLとされており、これを大きく下回ると低血糖と診断されます。
治療法は症状の重さによって異なる
低血糖症の治療は、症状の程度によってアプローチが変わります。
軽度の場合
- ブドウ糖の経口投与
自力で飲み込める状態であれば、液体ブドウ糖や栄養補助食品を口から与える処置が行われます。 - 安静と保温
ブドウ糖投与後は、静かな場所での安静が推奨されます。必要に応じて、短時間の経過観察が行われることもあります。
中等度〜重度の場合
- 静脈点滴によるグルコース補給
意識がない、けいれんが起きているなどの場合は、即座に静脈内にブドウ糖を点滴投与します。この処置により、短時間で血糖値を回復させることが可能です。 - 入院による集中的な治療
原因が不明な場合や、再発の恐れがあるケースでは、入院下での血糖値管理が行われます。食欲の回復や安定まで、定期的に血糖値をモニタリングします。
再発予防のためのアドバイス
治療後、再発を防ぐためには以下の点に注意するよう指導されるのが一般的です。
- 食事の回数と内容の見直し
- 低血糖症を起こしやすい持病の検査(例:肝疾患、内分泌疾患など)
- 今後の生活習慣の改善
- 自宅での血糖管理(一部では家庭用血糖測定器の導入を勧められる場合も)
動物病院での正確な診断と適切な治療により、命の危険を回避できるケースが多くあります。異常を感じたら早めに獣医師へ相談することが、愛犬の健康を守る最善策です。
低血糖症の原因になりやすい疾患や体質

一時的な原因と慢性的な原因を正確に理解する
低血糖症は単なる食事の不足やストレスだけでなく、体質や基礎疾患によって引き起こされることもあります。原因を正しく理解することで、再発の予防や早期発見が可能になります。
一過性の低血糖を引き起こす主な要因
子犬期の未熟な代謝機能
特に小型犬の子犬は、血糖値を維持するための肝臓機能やホルモン分泌が未成熟なため、ほんの数時間の空腹でも低血糖に陥ることがあります。これを「新生児・子犬型低血糖症」と呼び、成長と共にリスクは減少しますが、生後4〜6ヶ月までは特に注意が必要です。
長時間の空腹や不規則な食生活
体内のグリコーゲン貯蔵量が少ない犬にとって、食事の間隔が空きすぎることは非常に危険です。旅行や飼い主の生活サイクルの変化による食事の遅延なども要因になり得ます。
激しい運動や極度のストレス
エネルギー消費が一気に高まる場面では、血糖値が急激に低下します。特に、暑さや寒さへの適応が不十分な状況での散歩や、引っ越し・来客などの環境変化もリスクを高めます。
慢性的な低血糖を引き起こす疾患と体質
肝疾患(門脈体循環シャントなど)
肝臓はブドウ糖を作り出す重要な臓器であり、その機能が障害されると血糖値を正常に保てなくなります。先天性の門脈シャントなどは、小型犬で比較的多く見られる疾患です。
ホルモン異常(副腎皮質機能低下症・インスリノーマなど)
- 副腎皮質機能低下症(アジソン病):体がストレスに対応できず、血糖値を保てなくなる疾患。
- インスリノーマ:膵臓にできる腫瘍で、過剰なインスリン分泌により血糖値が慢性的に低下します。中高齢犬に多く、発見が遅れると命に関わることもあります。
遺伝的な代謝異常
一部の犬種には、糖代謝に関する遺伝的な疾患を持つ個体がいます。症状が軽微な場合は気づかれにくいものの、成長にともない発症するケースがあります。
要因の複合化にも注意
低血糖症は、多くの場合複数の要因が重なって発症します。たとえば、「食事が遅れた+寒さで震えた+興奮した」といった状況が引き金になることも。日頃から原因を意識し、複合的なリスクを回避することが重要です。
日常生活での再発防止と長期的な健康管理

低血糖症を「一度きりのトラブル」で終わらせない
小型犬の低血糖症は、一度発症すると再発のリスクが高くなります。しかし、日々の生活習慣や健康管理を見直すことで、再発を防ぐことは十分に可能です。大切なのは、一度の回復に安心せず、根本的な生活環境の改善と継続的な健康維持に努めることです。
食事と運動のバランスを最適化する
- 1日3回以上の食事を継続する
特に子犬や体重の軽い犬種では、分食スタイルを長期間維持することで、血糖の急降下を防げます。食事時間の記録やルーチン化も有効です。 - 高品質なドッグフードを選ぶ
安価なフードに頼らず、高たんぱく・低GI設計のプレミアムフードを選ぶことで、持続的なエネルギー供給が可能になります。特別療法食が必要な場合は獣医師と相談しましょう。 - 激しい運動を避け、安定した運動習慣を
散歩や遊びの時間も、運動量とタイミングを調整することで血糖管理がしやすくなります。特に空腹時の運動は避け、運動前後には軽く補食を。
定期的な健康診断で病気の早期発見を
- 年2回の血液検査を習慣に
血糖値はもちろん、肝機能やホルモンバランスの異常を早期に発見するためには、定期的な健康診断が不可欠です。異常値が出た場合は、すぐに治療方針の見直しを。 - 成長期・老齢期には特に注意
成長期の子犬やシニア犬は、代謝バランスが不安定になるため、体調や食欲の変化に敏感になることが再発予防につながります。
飼い主ができる日々のチェックポイント
以下の項目を日常的に確認することで、わずかな体調変化にも早期に対応できます。
- 食欲や元気の有無
- 排泄状況(下痢や便秘)
- 歩き方やふらつきの有無
- 活動量や睡眠時間の変化
- 目の輝きや被毛の状態
これらのサインは、低血糖症に限らずさまざまな健康トラブルの兆候となり得ます。「いつもと違う」を見逃さない観察力こそが、愛犬の命を守る鍵です。
まとめ
小型犬に多い低血糖症は、適切な知識と対応によって防ぐことができるトラブルです。本記事では、予防・応急処置・診断・治療・原因分析・再発防止に至るまで、6章にわたり詳しく解説しました。
愛犬の健康を守る第一歩は、飼い主が正しい知識を持ち、日々の生活に活かすことです。低血糖症を「知っているだけ」で終わらせず、「実際に予防・管理できる」ことを目指しましょう。定期的な獣医師との連携と、愛情ある日常のケアが何よりの治療となります。