パテラとは?小型犬に多い理由とそのリスク
パテラ(膝蓋骨脱臼)とは何か?
パテラとは、「膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)」の通称で、犬の膝にある「膝蓋骨(パテラ)」が正常な位置から外れてしまう疾患です。特に小型犬に多く見られる関節の病気で、歩行異常や痛みの原因になります。脱臼には、内側(内方脱臼)と外側(外方脱臼)があり、ほとんどの小型犬は内側脱臼を起こします。
小型犬に多い理由とは?
小型犬にパテラが多く見られるのは、骨格構造や関節のつくりが関係しています。以下のような要因が関係しています。
- 骨格が華奢で、筋肉の発達も不十分になりがち
- 膝関節の溝(滑車溝)が浅いため、骨がはずれやすい
- 先天的な要素が強く、特定の犬種では遺伝的に起こりやすい傾向がある
特にトイプードル、チワワ、ポメラニアン、ヨークシャー・テリアなどの超小型犬種では発症リスクが高いと言われています。
放置することで起こるリスク
軽度なパテラは一時的な足の引きずりで済むこともありますが、放置することで次のような問題を引き起こす可能性があります。
- 慢性的な関節炎
- 軟骨のすり減りによる痛みの悪化
- 骨の変形や靭帯断裂につながるケースも
- 歩行困難や運動制限による生活の質の低下
早期の発見と正しい対処が、犬の健康寿命を延ばす鍵になります。
獣医師が伝えたいポイント
小型犬の飼い主が知っておくべきなのは、「パテラは放置せずに対策すべき疾患である」ということです。発症してからの治療も重要ですが、それ以前に日頃の予防と管理が不可欠です。これからの章では、パテラの予防法、日常での対処法、治療の選択肢について詳しく解説していきます。
パテラの発症を防ぐための日常ケアと生活習慣

1. 滑りにくい環境づくり
パテラ予防において最も重要なのが、犬が滑りにくい環境を整えることです。フローリングの床は滑りやすく、膝に負担をかける要因となります。以下の対策が有効です。
- 滑り止めマットの設置:リビングや廊下にペット用のマットを敷くことで、足腰への負担を軽減できます。
- カーペットやジョイントマットの活用:床全体をカバーすることで、どこを歩いても安心な環境になります。
2. 適切な体重管理
体重が増えると、それだけで膝への負担が大きくなります。肥満はパテラの進行を早める原因にもなるため、理想体重の維持が欠かせません。
- 適量の食事:高カロリーな間食を控え、年齢や運動量に合わせたドッグフードを選ぶことが大切です。
- 定期的な体重チェック:動物病院での健康診断時に体重を測定し、過剰な増減がないかを確認しましょう。
3. 無理のない運動習慣
運動不足は筋力の低下を招き、関節を支える力が弱くなります。逆に過度な運動やジャンプの繰り返しは膝に負担をかけるため注意が必要です。
- 毎日の散歩で筋力維持:平坦で歩きやすい道を選び、長時間の運動よりも継続的な軽い散歩が理想です。
- ジャンプや急な方向転換を避ける:ソファやベッドへの飛び乗りを防ぐため、スロープを設置すると良いでしょう。
4. 爪・足裏のケア
滑りやすさの原因は、爪の伸びすぎや足裏の毛にもあります。以下のケアを定期的に行いましょう。
- 爪切り:床に当たるほど爪が伸びている場合、滑りやすく転倒の原因になります。
- 足裏の毛のカット:毛が長いと滑りやすくなるため、肉球の間の毛はこまめにトリミングしましょう。
5. サプリメントの活用(必要に応じて)
関節の健康維持に役立つサプリメントとして、グルコサミンやコンドロイチン、MSMなどを含む製品があります。これらはあくまで補助的な手段ですが、動物病院で相談のうえ適切に取り入れると良いでしょう。
パテラのグレード分類と見分け方

パテラは4段階に分類される
パテラ(膝蓋骨脱臼)は、その重症度に応じてグレード1からグレード4までの4段階に分類されます。これは獣医師による触診や歩行チェックに基づいて判断されます。正しいグレードを把握することで、今後の対応方針を決めやすくなります。
グレード1(軽度)
- 脱臼はするが自然に戻る
- 痛みや歩行異常がほとんど見られない
- 健康診断などで偶然発見されるケースも多い
グレード2(中等度)
- 脱臼すると戻らないが、手で押せば戻せる
- たまに足を浮かせる仕草やスキップのような歩き方が見られる
- 状態が進行するリスクがあるため、日常的な注意が必要
グレード3(重度)
- 常に脱臼したままで、戻してもすぐ外れる
- 歩行が不自然で、足を引きずるような動きが目立つ
- 骨格の変形が始まっている場合もある
グレード4(最重度)
- 膝蓋骨が完全に外れて固定され、手で戻せない
- 明らかに歩行困難で、痛みや筋力低下が深刻
- 外科手術が必要になることが多い
飼い主が気づけるサインとは?
パテラは進行性の疾患であるため、飼い主が日常的にチェックすべきポイントを知っておくことが重要です。
- 急に足をあげて歩く、ケンケンのような動作
- 立ち上がりを嫌がる、座るときにバランスを崩す
- 後ろ足を頻繁になめる・気にする
- 階段や段差を避けるようになる
これらのサインが見られた場合は、軽度でも一度動物病院で診断を受けることが勧められます。
グレードの進行を抑えるポイント
グレードが上がるほど治療の難易度が増すため、早期発見と日常ケアによる進行防止が大切です。前章で紹介した「滑らない環境」「適正体重の維持」「筋力強化の運動」などが進行抑制に効果を発揮します。
動物病院での診断と治療方法

パテラの診断方法
パテラの診断は、主に身体検査と画像診断によって行われます。飼い主の観察による情報も非常に重要です。
1. 視診と触診
- 獣医師が犬の歩き方を観察し、スキップ歩行や跛行(びっこう)がないかを確認します。
- 膝関節を手で触りながら、膝蓋骨の位置をチェックします。これにより、脱臼の程度(グレード)を判断します。
2. レントゲン検査
- 骨の変形や関節の状態を可視化できるため、正確な診断が可能です。
- 必要に応じて、複数の角度から撮影します。
3. CTやMRI(重度の場合)
- より詳細な評価が必要な場合には、CTスキャンやMRIが使用されることもあります。
- 靭帯や軟骨の状態まで把握できます。
治療方法はグレードにより異なる
パテラの治療は、症状の程度や犬の年齢・生活状況により異なります。大きく分けて保存療法(内科的治療)と外科手術があります。
軽度(グレード1~2):保存療法が中心
- 運動制限と環境改善:滑らない床やジャンプを避ける環境に整える
- 体重管理:体重を落とすことで膝への負担を軽減
- サプリメント:グルコサミン・コンドロイチンなど関節保護成分を補給
- 物理療法:水中歩行や軽いストレッチで筋力維持を図る
中度~重度(グレード2~4):手術が検討される
- 滑車溝の形成術:膝蓋骨が安定するように、関節の溝を深くする手術
- 骨の矯正術:大腿骨や脛骨の変形を矯正して、膝の軸を整える
- 靭帯の調整:内側への牽引力を軽減するために靭帯の位置や緊張を修正する
手術後のリハビリも重要
手術を行った場合、術後のリハビリが回復に大きく影響します。
- 安静期間の確保:術後数週間は運動制限が必要です。
- 段階的な運動再開:散歩やストレッチ、筋力トレーニングを段階的に行います。
- 定期的な再診:骨や関節の回復具合を確認し、必要に応じて治療を調整します。
自宅でできるリハビリとマッサージ方法

自宅リハビリの重要性
パテラの治療後や軽度症状の進行防止には、日常的な自宅リハビリが大きな役割を果たします。獣医師の指導を受けたうえで、安全かつ無理のない範囲で行うことがポイントです。リハビリにより筋力がつき、膝蓋骨を正しい位置に保ちやすくなります。
おすすめのリハビリメニュー
1. 平地でのゆっくり散歩
- 柔らかすぎない地面を選び、ゆっくりとした速度で毎日10〜15分程度行うのが効果的です。
- 筋力のバランスを取るために、左右均等に歩かせることを意識します。
2. バランス運動(バランスディスクやクッションを使用)
- バランスディスクやクッションの上に前足だけを乗せ、後ろ足に負荷をかけることで膝周りの筋肉を鍛えるトレーニングです。
- 初心者は短時間(5秒〜10秒)から始め、徐々に慣らします。
3. 水中歩行(自宅に設備がある場合)
- 水の浮力により関節への負担を軽減しつつ、筋力アップが可能です。
- 自宅の浅いプールや浴槽でも実施可能ですが、安全管理を徹底してください。
マッサージで筋肉をサポート
マッサージは血行を促進し、筋肉の緊張を緩和することで、関節の動きをスムーズにします。
脚のマッサージ方法
- 太もも〜膝にかけて:優しく円を描くように撫でます(1〜2分程度)。
- 膝の周囲:指の腹で軽く押さえるようにして筋肉をほぐします。
- 後ろ足のストレッチ:足をまっすぐ後方に伸ばし、10秒ほどキープします(無理は禁物)。
リハビリを続けるためのコツ
- 毎日決まった時間に実施:ルーティン化することで犬が嫌がりにくくなります。
- ご褒美を活用:リハビリ後におやつや褒め言葉を与えることで、前向きな習慣に。
- 無理をしない:痛がる様子があればすぐに中止し、獣医師に相談しましょう。
パテラと向き合う飼い主の心構えと今後の対策

パテラは「一生付き合う可能性のある疾患」
パテラは、一度発症すると完治が難しく、慢性化しやすい関節疾患です。特に手術を必要としない軽度のケースでは、飼い主による継続的な管理が犬のQOL(生活の質)を左右します。重要なのは、「予防」「進行抑制」「快適な生活環境づくり」の3つを習慣化することです。
飼い主に求められる心構え
1. 正しい知識を持ち、焦らない
- 症状が出たとしても、正確な知識と冷静な対応があれば、悪化を防ぐことが可能です。
- ネット情報に振り回されず、信頼できる獣医師と連携することが大切です。
2. 継続的な観察とケア
- 日々の様子をよく観察し、小さな変化にも気づくこと。
- 月1回の写真や動画で歩き方を記録しておくと、変化に気づきやすくなります。
3. 健康管理の見直し
- 食事、運動、睡眠、ストレスなど生活全体を見直すことが、パテラだけでなく他の健康面にも好影響を与えます。
今後の対策として取り入れたい習慣
定期健診の受診
- 症状がなくても年に1~2回の関節チェックを受けることで、早期発見・早期対応が可能になります。
高齢期への備え
- 年齢とともに筋力が落ちるため、若いうちからの予防・運動習慣が将来の負担軽減につながります。
安全な生活環境の維持
- 家具の配置、段差の有無、床材の選定などを見直し、膝に負担の少ない室内環境を継続的に保つようにしましょう。
総まとめ
小型犬に多い「パテラ」は、飼い主の意識と日常ケアによって予防・進行防止が可能な疾患です。本記事では、パテラの基礎知識から日常対策、診断・治療、リハビリ、心構えに至るまでを6章にわたって解説しました。
愛犬の健やかな毎日を守るために、小さなサインを見逃さず、根気よくケアを続けることが何よりも大切です。