なぜ小型犬ほどお手入れが重要なのか?その理由をプロが解説
小型犬は家庭犬として高い人気を誇りますが、その可愛らしい見た目の裏には、犬種特有の被毛・皮膚・体質に応じた細やかなケアが求められる現実があります。特にトリマーの視点から見ると、小型犬は大型犬に比べてお手入れの頻度や手間が多くなりがちです。ここでは、「なぜ小型犬はお手入れが大変なのか?」という疑問に対して、トリマーの実体験をもとに詳しく解説していきます。
小型犬は皮膚トラブルが起きやすい
小型犬は皮膚が非常にデリケートな犬種が多く、乾燥やかゆみ、湿疹などの皮膚疾患を起こしやすい傾向にあります。そのため、シャンプーや保湿、定期的なブラッシングなどによる日常的なケアが不可欠です。放置すると、フケやかゆみ、悪臭の原因となるばかりか、皮膚炎や外耳炎などの病気にもつながります。
抜け毛・毛玉問題が深刻
特に長毛種やダブルコートの犬種は、毛玉や絡まりやすい被毛の手入れが必要です。日々のブラッシングを怠ると、毛玉が皮膚を引っ張って炎症を起こすことがあります。また、トリミングサロンでも対応が難しくなるため、自宅でのこまめなブラッシングが重要です。
小型犬は被毛の伸びが早い犬種も多い
マルチーズやトイプードルのように、毛が伸び続けるタイプの小型犬は、定期的なトリミングが欠かせません。見た目の美しさを保つだけでなく、目や耳、口のまわりなどに毛がかかることで衛生面の問題が生じるため、最低でも月に1回程度のプロケアが推奨されます。
被毛の種類に応じたケアが複雑化している
小型犬の中には、直毛・巻き毛・縮れ毛など、さまざまな毛質を持つ犬種が存在します。毛質ごとに適したブラシの種類やシャンプー剤、トリミング方法も異なり、一律の方法では通用しないのが現実です。したがって、犬種ごとに最適なケアを理解することが、飼い主にとっての大きな課題になります。
まとめ:可愛さの裏にあるケアの大切さを知ろう
「小型犬=手がかからない」というイメージは誤解です。実際には小さな体に多くの注意点が詰まっているため、飼い主は正しい知識と習慣を持つことが重要です。この連載では、特にお手入れが大変な小型犬種をランキング形式で紹介しながら、犬種別のケアポイントを詳しく解説していきます。
第5位 トイプードル|見た目以上に大変な巻き毛ケアの落とし穴

トイプードルはその愛らしい巻き毛と知的な性格で高い人気を誇る小型犬です。しかし、一見ふわふわで可愛らしい被毛は、実は非常に手間がかかる特徴を持っています。ここでは、プロトリマーの視点から、トイプードルのケアで気をつけたいポイントを解説します。
トイプードルの被毛の特徴
トイプードルの被毛は、抜け毛が少ない「シングルコート」で、巻き毛が密集しているのが特徴です。この構造により、他の犬種と比べて抜け毛が少なく部屋が汚れにくい一方で、毛玉ができやすく通気性が悪いという欠点があります。
そのため、ブラッシングやトリミングを怠ると、皮膚に負担がかかるだけでなく、毛玉の中に湿気がこもって皮膚病のリスクも高まるのです。
ケアの頻度と必要な道具
トイプードルのケアは、以下の頻度と道具を目安にしましょう。
- ブラッシング:毎日1回
- 使用推奨:スリッカーブラシ+コーム(毛玉取り用)
- シャンプー:2〜3週間に1回
- 使用推奨:低刺激で保湿力の高いシャンプー
- トリミング:月1回が理想
- 特に顔まわりや足裏、肛門まわりのカットは必須
トリマーがよく遭遇する失敗例
多くの飼い主が「毎日のブラッシングができていない」ために、毛玉だらけの状態でトリミングに訪れることがあります。毛玉の量が多すぎる場合、バリカンで全身を短く刈るしかないこともあり、理想のカットができないケースも少なくありません。
また、顔まわりのケア不足により涙やけや目ヤニがこびりつくと、皮膚炎や目の病気を引き起こすリスクもあるため、目元のケアも非常に重要です。
第4位 ポメラニアン|ふわふわの裏に隠れたダブルコートの難関

ポメラニアンはその豊かな被毛と丸いフォルムで人気の小型犬ですが、その美しさを保つためには高頻度かつ丁寧なケアが必要です。特に、「ダブルコート」ならではの抜け毛・毛玉・皮膚トラブルが発生しやすいため、適切な対応が求められます。
ポメラニアンの被毛構造とそのケアの難しさ
ポメラニアンの被毛は、「オーバーコート(外毛)」と「アンダーコート(下毛)」の2層構造で、これがダブルコートと呼ばれるタイプです。この被毛は季節の変わり目にごっそりと抜ける換毛期がある一方で、毛が絡まりやすく、放置するとすぐに毛玉ができてしまうという特徴を持ちます。
また、毛玉の中は湿気がこもりやすく、皮膚炎の原因になることもあります。とくに脇の下、耳の裏、内ももなど摩擦が多い部位は要注意です。
日常ケアのポイントと頻度
ポメラニアンの被毛を美しく健康に保つためには、以下のようなケアを習慣化することが大切です。
- ブラッシング:最低でも2日に1回(理想は毎日)
- 使用推奨:ピンブラシ+スリッカーブラシ
- シャンプー:月2回程度
- 使用推奨:被毛にボリュームを出すタイプのシャンプー
- トリミング:月1回(部分カット含む)
- 特にお尻まわり、足裏、首元の形を整えるだけでも清潔感が向上
トリマーが警告する注意点
「見た目はきれいだけど、内側は毛玉だらけ」というケースが非常に多く見られます。表面だけブラッシングして満足するのではなく、毛の根元までブラシを通すことが必須です。また、換毛期には死毛(抜けかけの毛)を放置しないよう、抜け毛対策としてスリッカーやコームでの念入りなブラッシングが必要です。
さらに、ポメラニアンに流行している「柴犬カット」などの極端なサマーカットは、毛質や皮膚にダメージを与える恐れがあるため、プロの判断を仰ぐことが重要です。
第3位 シーズー|可愛い顔に潜む涙やけと皮膚トラブルの多さ

シーズーはその愛らしい丸顔と垂れた耳、そして長くまっすぐ伸びる被毛が魅力の小型犬です。しかし、見た目の可愛さとは裏腹に、被毛・皮膚・顔まわりのケアが非常に手間がかかる犬種でもあります。とくに涙やけや耳のトラブル、毛玉対策など、複合的なお手入れが必要です。
シーズーの被毛と皮膚の特徴
シーズーはシングルコートで、被毛がどこまでも伸びるタイプです。このため、放っておくと目に毛が入りやすくなり、涙やけや角膜炎を引き起こす原因となります。また、皮膚が非常に敏感で蒸れやすく、皮膚炎や膿皮症といった疾患のリスクも高いのが特徴です。
さらに、垂れ耳で通気性が悪いため、外耳炎や耳の中の湿気による細菌繁殖にも注意が必要です。
日々のケアで必須なポイント
シーズーの健康と見た目を保つためには、以下のようなケアが必要です。
- 顔まわりの拭き取り:毎日(特に目の下)
- 使用推奨:涙やけ専用のウェットシートや蒸しタオル
- ブラッシング:毎日(特に耳の裏、脇の下)
- 使用推奨:ピンブラシ+コーム
- シャンプー:2〜3週間に1回
- 皮膚にやさしい保湿タイプを選ぶ
- 耳掃除:週1回を目安に
- 通気性を保ち、耳の中の清潔をキープ
トリミングの頻度と注意点
シーズーは毛が伸び続けるため、トリミングは最低でも月1回が必要です。多くの飼い主が「顔まわりだけカットすればよい」と思いがちですが、体の毛が絡まったり、蒸れて皮膚トラブルを起こすケースも多いため、全身カットが基本です。
また、目の上の毛を伸ばす「トップノットスタイル」や、短く整える「ベアカット」など、スタイルに応じた日々のメンテナンスが必要です。
第2位 マルチーズ|真っ白な被毛を保つには想像以上の努力が必要

マルチーズは、真っ白で絹のように滑らかな被毛が魅力的な小型犬です。気品ある見た目と穏やかな性格で人気が高い一方で、「清潔感を維持するためのお手入れ」が非常に大変な犬種でもあります。トリマー視点では、見た目の美しさと健康を両立させるための高頻度なケアが必須とされています。
マルチーズの被毛の特徴と課題
マルチーズは、シングルコートで毛が伸び続けるタイプです。そのため、毛玉ができやすく、毎日のブラッシングが不可欠です。また、白い被毛は非常に汚れが目立ちやすく、涙やけや食べ物の汚れ、散歩中の汚れがつくとすぐに変色してしまいます。
特に涙やけによって顔の毛が赤茶色に変色する問題は多くの飼い主が悩んでおり、日常の細やかなケアが美しさの維持に直結します。
日常ケアの必須ルーチン
マルチーズのケアは以下の点を押さえることが重要です。
- ブラッシング:毎日(毛玉予防とツヤ出し)
- 使用推奨:ピンブラシ+スリッカーブラシ+コーム
- 目元・口元の拭き取り:毎日(涙やけ・食べこぼし防止)
- 蒸しタオルや涙やけ用シートが有効
- シャンプー:2週間に1回が理想
- 汚れ落ちと保湿性の高い低刺激タイプを選ぶ
- トリミング:月1回(清潔感と見た目を保つため)
- 顔まわり・足回り・肛門まわりのカットは特に重要
トリマーから見た要注意ポイント
特に見落とされがちなのが「耳の中と足裏の毛の管理」です。マルチーズは垂れ耳の犬種で耳の中が蒸れやすく、耳毛や湿気が原因で外耳炎を起こしやすいため、月に一度は耳毛処理と耳掃除が必要です。また、足裏の毛が伸びすぎると滑りやすくなるため、定期的な足裏カットも必須です。
さらに、顔まわりの毛を伸ばすスタイルにしている場合は、毎日の結び直しが必要になることもあり、手間がかかる点も留意が必要です。
第1位 ヨークシャーテリア|被毛・皮膚・気温管理すべてが難易度MAX

第1位にランクインしたのは、見た目の美しさとコンパクトな体格で人気のヨークシャーテリア。そのサラサラとした絹糸のような被毛は非常に魅力的ですが、「美しさを保つ=日常の手間が非常に多い」という、まさにトリマー泣かせの犬種でもあります。
ヨーキーは、被毛管理・皮膚ケア・気温調整・メンタル面の配慮など、トータルで高いお手入れレベルが求められる犬種です。
ヨーキーの被毛は“人間の髪の毛”に近い
ヨーキーの被毛は他の犬種とは異なり、アンダーコートがなく、1本1本が細く柔らかいシングルコート。このため、毛玉・絡まり・乾燥・切れ毛が非常に発生しやすいという特性を持ちます。
また、静電気や湿気、ホコリを拾いやすく、すぐに毛の質感が悪くなるため、日々の丁寧なケアが必須です。
毎日のケアが当たり前
ヨークシャーテリアの健康と美観を保つためには、以下のようなルーチンケアが必要です。
- ブラッシング:朝晩2回(最低でも1回)
- 使用推奨:静電気防止スプレー+ピンブラシ+スリッカー+コーム
- 顔まわりの拭き取り:毎日(特に口元と目元)
- 食事のたびに汚れるため都度対応
- シャンプー:10〜14日に1回
- シルクプロテインなど保湿・補修成分入りが望ましい
- トリミング:3〜4週間に1回(全身整える)
- 特に頭部や耳、足回りのデザインカットは重要
被毛だけでなく皮膚も非常にデリケート
ヨーキーは被毛だけでなく皮膚も薄く敏感です。少しの刺激でも赤み・かゆみ・フケ・湿疹が出やすく、皮膚トラブルのリスクが高いのが特徴です。そのため、シャンプーやブラシ選び、力加減にも常に気を使う必要があります。
また、体温調整が苦手で暑さ・寒さに弱く、季節ごとの被毛の長さ調整や室温管理にも注意が必要です。
ロングヘアスタイル維持の苦労と対策
ヨーキーを「ショータイプ」のようにフルコートで育てる場合、毎日の被毛の巻き・オイルケア・結び直しなどが必須です。一方、家庭犬としては「テディベアカット」「パピーカット」といった短めのスタイルが主流ですが、それでも定期的なカットとお手入れが欠かせません。
お手入れが必要な犬種に共通するポイントとは?プロが教える基礎知識

ここまで、トリマー視点から小型犬種の中でも特にお手入れが大変な犬種ランキングTOP5を解説してきました。ランキングに登場した犬種にはそれぞれ特有のケアの難しさがありますが、実は共通して押さえるべき基本のポイントがいくつか存在します。ここでは、それらのポイントを体系的にまとめて紹介します。
共通ポイント1:シングルコート=被毛が伸び続ける
シングルコートの犬種(例:トイプードル、マルチーズ、ヨーキー)は、毛が抜けにくい反面、定期的なトリミングが必要不可欠です。被毛が伸びることで目や耳、口まわりを覆い、視界不良や不衛生な状態になりやすいため、月1回のカットが理想です。
共通ポイント2:毛玉・絡まりは皮膚病のもと
毛玉は見た目だけの問題ではなく、毛の引っ張りによる皮膚炎や湿気による細菌繁殖の原因になります。特に耳の裏・脇の下・内ももなど摩擦が生じやすい部位は毛玉ができやすく、定期的に根元からブラッシングを行うことが予防の鍵です。
共通ポイント3:涙やけ・耳の汚れは放置厳禁
目元・耳元のケアも、お手入れが必要な犬種に共通する課題です。涙やけは放置すると毛の変色や皮膚のただれを引き起こし、耳の中の汚れは外耳炎へとつながります。毎日の拭き取りと週1回程度の耳掃除が健康維持に直結します。
共通ポイント4:皮膚トラブルを防ぐには道具選びも重要
どんなにケアの頻度が高くても、間違った道具を使うと皮膚を傷つける原因になります。以下のような道具を正しく使い分けましょう。
- ピンブラシ:長毛犬の被毛を整えるのに適している
- スリッカーブラシ:毛玉の除去や抜け毛の除去に効果的
- コーム:仕上げや毛玉の根元チェックに最適
- イヤークリーナー・涙やけ用ローション:専用の低刺激製品を選ぶ
共通ポイント5:プロとの連携が重要
どれだけ自宅でケアしても、プロの手によるチェックとトリミングは欠かせません。月に一度はトリマーに相談し、被毛や皮膚の状態を見てもらうことで早期発見・早期対応が可能になります。
後悔しないために。お手入れ重視で小型犬を選ぶという視点

これまでの章で、小型犬におけるお手入れの重要性と犬種ごとの具体的なケア内容を詳しく見てきました。可愛らしさや飼いやすさだけで犬種を選んでしまうと、実際に飼育を始めてから「思った以上に大変だった…」と後悔するケースが少なくありません。最終章では、これから小型犬を迎えようと考えている方や、犬種選びに迷っている方向けに、お手入れの観点からのアドバイスをお伝えします。
「見た目の好み」だけで選ばない
トイプードルの巻き毛、マルチーズやヨーキーのシルキーな被毛、ポメラニアンのふわふわの毛など、魅力的な外見に惹かれる気持ちは自然なことです。しかし、被毛の美しさ=日々の手入れの積み重ねです。どれほど時間を割けるか、自宅でのケアができるかを事前に考えておくことが、後悔しない選び方につながります。
お手入れ頻度を比較して犬種を選ぶ
「毎日のブラッシングが必須なのか」「月に何度トリミングに通う必要があるのか」といった情報は、飼う前に必ず調べておくべきポイントです。自分のライフスタイルに無理なく取り入れられる範囲でケアができる犬種を選ぶことで、犬にも飼い主にもストレスの少ない生活が実現します。
トリマーとの相談は最強の近道
犬を迎える前にトリミングサロンに相談するのもおすすめです。トリマーは犬種ごとの特徴やお手入れの難易度を熟知しており、実際の飼育イメージを具体的に持たせてくれます。どの犬種にどのようなケアが必要かを正しく理解することで、理想の犬との暮らしがぐっと近づきます。
まとめ:愛情だけでは足りない、「知識」と「準備」が鍵
小型犬はその見た目から「お世話が簡単そう」と思われがちですが、実際は大型犬以上に繊細なケアが求められることも多いのが現実です。飼う前の準備、日々の手入れ、プロとの連携を含めて、愛情だけでなく“正しい知識と準備”を持つことが、犬との幸せな暮らしの第一歩です。